片頭痛とは?
片頭痛とは、頭の片側または両側が痛み、日常生活に支障をきたすことのある頭痛です。この痛みは吐き気や嘔吐を伴うことがあり、光や音、においに対して敏感になることもあります。頭痛には大きく分けて、頭痛そのものが病気である一次性頭痛と、他の病気が原因で発生する二次性頭痛があります。片頭痛は一次性頭痛の代表的な一つで、日本人の約8.4%は片頭痛持ちと言われています。
片頭痛は特に「働き盛り」と呼ばれる年齢層に多く見られるため、ご自身の日常生活に影響を与えるだけでなく、パートナーや御家族にも負担が生じると言われています。さらに頭痛により仕事の生産性が低下し、社会における経済的な損失も懸念されます。日本での片頭痛における労働生産性低下による経済的損失は、年間約3600億~2兆3000億円と言われており、最早片頭痛は個人だけの問題ではないかもしれません。
片頭痛の症状
生活に支障が出るほど痛みが重い
片頭痛の場合、「動けない」「休息が必要」と感じるほどの強い頭痛が現れ、日常生活や仕事、家事に影響を及ぼします。「暗いところで静かにじっとしていたい」「体を動かすと痛みが悪化する」「しゃがんだり、頭を左右に振ったりすると痛みが増す」などの場合、片頭痛の可能性が考えられます。
吐き気や嘔吐を伴う
片頭痛は、吐き気や嘔吐、下痢などの症状を伴う事があります。
光や音、においに敏感になる
普段は気にならない光や音、においに対して敏感になり、これらの刺激が不快に感じられます。このため、多くの人は「暗くて静かな場所で休みたい」と感じることが多いです。またもともと「光」「音」「におい」が敏感な場合もあります。
脈打つような拍動性の痛みがある
典型的な片頭痛では、ズキンズキンと脈打つような痛みが特徴です。ただし、「脈打つ感覚が分からない」という人や、片頭痛以外の頭痛でも同様の感覚を訴える人がいるため、拍動性の痛みだけで片頭痛と断定することはできません。特に慢性化すると「拍動性」の頭痛以外の痛みもみられることがあり専門的な診断や治療が必要になります。
視界がキラキラと光る「閃輝暗点(せんきあんてん)」がある
片頭痛患者の約3割に、前兆が現れます。そのうちの約9割は視覚性前兆であり、頭痛が始まる前に視界にキラキラと光が見える「閃輝暗点」という前兆が現れます。閃輝暗点は5~60分間続き、それに続いて頭痛が始まることが多いです。
頭の片側だけが痛むとは限らない
「片頭痛」という名前が示すように、頭の片側が痛むことが多いですが、両側が痛む場合もあります。また、頭痛はズキズキする(拍動性)が代表的ではありますが、「締めつけられるような頭痛」などの症状を呈する場合もあります。
1回の発作が4~72時間継続する
片頭痛発作の持続時間は4~72時間(子供は2~72時間)です。
発作が生じる頻度はさまざま
片頭痛の発作頻度は個人差があり、年に数回の人から、月1回や週に何度も発作が起こる人までさまざまです。気候の変化、環境や生活習慣、鎮痛薬の過剰使用など様々な要因が原因で、発作の頻度が増え頭痛が悪化することにより、年間約3%程度は慢性片頭痛になることもあります。慢性片頭痛は治療が難しくなるため、早期の適切な治療が重要です。
片頭痛との違いは?主な頭痛のタイプ
一次性頭痛には、片頭痛以外にも緊張型頭痛と群発頭痛があります。それぞれの特徴を見てみましょう。
緊張型頭痛
緊張型頭痛は、一次性頭痛の中で最も頻度の高い頭痛ですが、正確な病態や発症機序はいまだ解明されていません。一方、頭や肩、首の筋肉が緊張したり(肉体的ストレス)、緊張などのストレス(精神的ストレス)によっても生じると言われており、頭が締め付けられるような痛みや頭重感が代表的な症状です。
頭痛は両側性であることが多く、痛みの程度は軽度から中等度であることが多くみられます。吐き気や嘔吐は伴わないことが一般的です。緊張型頭痛と片頭痛の両方を抱えている方もみられますが、治療法は異なるため正確な診断と適切な治療が必要になります。
群発頭痛
群発頭痛は、片側の眼や側頭部にえぐられるようなきわめて強い痛みが生じる頭痛です。特徴的なのは、数週間から数か月続く頭痛が起こる「群発期」が周期的にやってくることです。
片頭痛は「痛くてじっとしていたい」との声が多いのに対し、群発頭痛は「痛すぎてじっとしていらない」という非常に強い痛みが現れます。群発頭痛の有病率は10万人当たり56~401人程度とされており、これは片頭痛と比べるとかなり少ない数字です。片頭痛とは異なり、女性よりも男性に多く(3~7倍)発症するのが特徴です。
片頭痛の原因
片頭痛の診断・治療法
片頭痛の診断には、医師による正しい問診と診察が必要です。頭痛のタイプ、持続時間、頻度、痛みの強さ、頭痛に伴う症状(吐き気、嘔吐、感覚過敏など)、ライフスタイル(睡眠、飲酒、食事など)について詳しくお聞きします。頭痛の記録(頭痛ダイアリー)を日々つけておくと、診断に役立ちます。必要に応じて神経学的な診察や、採血、画像検査を行い、脳出血やくも膜下出血などの危険な疾患を除外します。これらの検査により、一次性頭痛として片頭痛が診断されます。
片頭痛と診断された場合、医師は以下の治療法を提案します。
急性期治療
片頭痛の発作時には薬物療法が基本です。
痛みが軽度であれば、アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの鎮痛薬で構いませんが、痛みが強い場合はトリプタン製剤やラスミジタンを使用します。
トリプタン製剤
セロトニン受容体と言うところに作用する、片頭痛に対する鎮痛薬です。頭痛が始まったらなるべく早く服用する必要があります。トリプタンは血管収縮作用があるため、一部の片頭痛や脳梗塞や虚血性心疾患の既往があると使用できません。
ラスミジタン
トリプタンと違い血管収縮作用を伴わないセロトニン受容体に効く片頭痛用の急性期治療薬です。トリプタンと違い、頭痛がある程度進行してから服用しても効果が期待できる薬剤ですが、めまいなどの副作用がやや多くみられます。
吐き気止めや鎮痛薬
必要に応じて、吐き気を抑える薬や一般的な鎮痛薬を併用します。
予防療法
片頭痛が月に2回以上もしくは生活に支障をきたす頭痛が月に3日以上ある場合には、予防的な薬物療法が検討されます。
片頭痛発作抑制薬
毎日服用することで、片頭痛の発作頻度や強度を軽減します。抗てんかん薬や抗うつ剤、血圧降下剤などが使用されます。
抗CGRP関連抗体薬
頭の中の三叉神経からカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が放出され、このCGRPが受容体にくっつくことが片頭痛の一因になると考えらえれています。このCGRPをブロックすることにより片頭痛を予防する薬剤です。CGRP自体に結合するガルカネヅマブ、フレマネズマブ、CGRP受容体に結合するエレヌマブの3剤が日本では使用されています。
生活習慣も大切!日常でできる片頭痛対策
片頭痛の予防と改善には、生活習慣の見直しが非常に重要です。医療機関では薬の処方だけでなく、個々の患者様に合わせた生活指導も行われます。
片頭痛の予防には、規則正しい生活を送ることが不可欠です。
適切な睡眠
寝すぎや寝不足は片頭痛の引き金となることがあります。自分に適した睡眠時間を見つけることと同時に規則正しい睡眠習慣を身につけましょう。
ストレス管理
ストレスをうまく発散することが大切です。ストレスの原因から離れる時間を持ち、リラックスできる趣味や活動を見つけましょう。
適度な運動
片頭痛の発作がないときには、適度な運動を取り入れることも効果的です。
片頭痛を引き起こす可能性のある要因を避けることも重要です。
食品の選択
チョコレートやチーズ、ナッツ、加工肉など、片頭痛の誘因となる食品がありますが、必ずしも避ける必要はありません。ただし、アルコール、とりわけ赤ワインは片頭痛の引き金となることが多いので、控えることが望ましいです。
痛みがないとき(発作間欠期)にも支障を抱えていませんか?
片頭痛の患者さんは「頭が痛いとき(頭痛発作時)」だけではなく、「頭が痛くないとき(発作間欠期)」にも支障を抱えていることが知られています。
光が苦手ではありませんか?
光に敏感な人は、日常的にサングラスや調光レンズのメガネを使用したり、帽子をかぶって光を遮るなどの対策を取りましょう。
音が苦手ではありませんか?
大きな音が苦手であったり騒がしい場所が苦手な場合もあります。耳栓やノイズキャンセリングのイヤホンも上手に活用するといいかもしれません。
周囲の理解は得られていますか?
「また頭痛?」などと周囲の人から何気なく言われる言葉も片頭痛持ちにはストレスの原因になります。片頭痛の症状は見た目ではわからないため、周囲の人に理解されにくいことがありますが、自分の症状を正確に伝え、サポートを求めることも重要です。
次来る「頭痛」が不安ではありませんか?
片頭痛は強い頭痛であることが多く、そのため次の頭痛が不安になることがあります。そのため「遊び行く約束ができない」「また頭痛が来たらどうしよう」と様々な不安を抱えることが多くみられます。片頭痛は我慢する必要はありません。最近では治療の選択肢が広がり、より効果的な治療法が利用可能となっています。適切な診断と治療を受けることが大切です。
あなたに合った治療法を見つけ、適切な急性期治療そして予防療法を受けることで、片頭痛による苦しみから解放されることが期待できます。生活の質を向上させるためにも、専門医の指導のもとで最適な治療を続けましょう。